世界のWeb広告賞を総なめした「UNIQLOCK」。そのクリエイティブディレクターが田中耕一郎さん(projector)です。他にも、「UNIQLO JUMP」や「UNIQLO/DRY IN MOTION」など、話題になるWebコンテンツを作っている田中さんに、その制作プロセスでどのようなことを考えているか、うかがいました。
みんなが参加したくなる企画を出すことが、大事。
田中さんは、普段どのようなポジションで、
どのようなことを大事にされて、お仕事をされているのでしょうか。
優れたコミュニケーションが実現すればいい。その為に必要なこと全てを考えて実行することが、僕の役割です。今は、様々な分野のプロの方々とチームを組むのが普通になりましたけど、会社をはじめた頃は、Webコンテンツにはあまり予算がつかなかったので、自分で出来そうなことは
とりあえず、自分でなんとかするというスタンスで仕事していました。コピー、戦略、情報設計、映像演出、デザインディレクション、PRなど、なんでも屋です。自主企画を考えて、飛び込み営業をしていた時期もありましたし。外部のスタッフと組めるようになってからは、優秀なスタッフのネットワークをつくることが、とにかく大事だと思うようになりました。そのためには、クリエイターが思わず参加したくなる企画を出さなくてはお話しになりません。だから、僕が企画を出す段階で注意しているのは、新しい表現を盛り込む器としての企画です。具体的な表現のアウトプットを規定する企画ではなく、アイデアを発展させる為の枠組みです。
そのためには、自分で最終型までイメージしすぎないこと。チームのみんなに、僕のまったく想像しないところまで、自分の企画を連れて行ってもらいたいんです。そうすると自分が考えたり、イメージしたことを超えられると思っています。もちろん、自分なりの方向性や意見を持つことは大前提ですけどね。
僕の仕事は「翻訳家」や「編集者」に近いと思います。UNIQLOCKで考えるとわかりやすいですが、ウェブ、映像、音楽、ダンスなど、様々な分野のクリエイターが集っていますから、価値基準が異なるわけです。そこで、僕がそれぞれの視点を翻訳して、全体を編み直していくことが大切だと思っています。
普段、どうやって企画を考えていらっしゃいますか?
僕は、自分を取っ払って企画を作ることができないタイプです。自分の興味があること、自分のやりたいことと、クライアントや商品の想いを重ねながら、企画を作ります。
Webの場合、他のメディアと違って、表現を規定する器、つまり「フォーム」自体を作ることができます。表現アイデアとフォームは切り離せませんし、フォームがそのまま表現アイデアに直結することも多い。だから僕は、企画を考える時、フォームをかなり重視します。まだまだWebには、見たことのない、新しいフォームが潜在しています。それを掘り起こしていく。その意味では、メディアアートの発想に近いです。実際に、広告よりもメディアアートから影響を受けることの方が多いですね。たぶん、僕のやり方のベースにあるのは、そういったメディアアートや映像のエッセンスとか原理を応用しながら、Webの新しい表現を編集していく感覚ですね。
どのように解釈されるかを、とことんイメージします。
Webというメディアの特性自体に、ヒントがあるということですね。
そうです。たとえば、ソフトウェアには「β版」というものがあるでしょう。完成前に一度公開して、広くユーザーの意見を反映していくソフトウェアの開発方法ですが、あれは極めてWebっぽいと思います。どこかで情報が固定されるのではなくて、ずっと進化していく。その部分は、今までのメディアとは大きく違いますよね。
Webによって社会が一番変わったと思うのは、情報の広がり方です。たとえば、映画。興行成績とはまったく別の様々な評価軸がWebの中で出来上がりつつあります。歴史的な評価。各領域のマニアの評価。同世代の正直な感想。そういう情報を潜り抜けると、映画素人の若者が突然ゴダールにハマッたりする現象が起こるわけです。テレビ番組も、もはや視聴率だけではない。YOUTUBEの評価点を参考にテレビ番組を選ぶ人だって、けっこういるはずです。僕自身、RSSに登録したブログを毎日読むようになってから、生活が変わりました。本もDVDも、今は信用できるブログを参考にしてWebで買うことがとても多くなりました。
この現象をコンテンツの作り手側から捉えると、「どのように解釈されるか」「どうしたらこのコンテンツが広まるか」を考え尽くして、最適な方法を導き出すことが大切だということです。あらゆるユーザーの目線でイメージし、検証することが表現を磨きます。
「これは、なぜ面白い?」と、問い続ける毎日。
では、1-click Awardのチャレンジャー達にメッセージをお願いします。
僕は普段から、その理由が自分ではうまく説明しきれないけれども、なんだか面白いと感じるものに注目するようにしてます。そして、「なぜ?」と考える。少し理由がわかって喜んでいると、また新たな「?」が出てくる。その繰り返しです。
チームを組むクリエイターも、自分にないものを持っている人を組むことが多いですね。たとえば、UNIQLOCKで一緒に仕事をしている映像ディレクターの児玉さんも、その1人です。彼が、ダンサーに「ちょっと目線を下げて」とディレクションしたことがありました。目線を下げたら、女の子をすごく可愛く見えた。これはすごい!と思いました。同時に、謎でした。その後も児玉さんの仕事ぶりをずっと見ていると、たんだんと、児玉裕一の演出がわかるようになってくるんです。そうすると、映像の見方が変わるし、もっと言うと、世界の見方が広がったり深まったするわけです。これが、自分を成長させる一番の糧だと思うんですね。それから、皆さんに、まずは「自分やどういう情報を気持ちいいと感じるか」を考えてみることをお薦めします。その時、ムリに言語化する必要はないんです。映像には映像のコトバがあり、音楽には音楽のコトバがありますから。言葉はむしろ、一番後からついてくるものです。それよりも、体や心で感じ、考え、フィジカルに理解することが大切です。
1-click Awardは、観る人の感情を引き出せるかどうかが勝負のポイントになると思います。どうしたら、見る人が気持ちよく感情を投げ出してくれるか。それを、いろいろな視点から考え尽くしていけば、表現の答えが見えてくるんじゃないでしょうか。1つヒントを言えば、「子供にもわかるかどうか」。これは、僕自身のこれからのテーマですし、Webコンテンツ制作で特に大切になっていく視点だと思います。
なるほど。いいヒントになりそうです。面白いお話し、ありがとうございました!
田中耕一郎
Projector inc.
クリエイティブディレクター
1973年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。 広告制作会社TYOを経て、 2004年にProjectorを設立。 UNIQLOCK、Big Shadow、CUPNOODLE FREEDOM PROJECT、BEYES表参道ヒルズ店インタラクティブインスタレーションなど。 2007年に公開されたUNIQLOCKでは、カンヌ国際広告祭、ONE SHOW、米クリオ賞の世界3大広告祭で全てグランプリを獲得する快挙を達成。 カンヌ国際広告祭金賞、New York One Show銀賞、東京インタラクティブ・アド・アワードグランプリなど、国内外の広告賞受賞歴も多数。